札幌高等裁判所 昭和42年(う)165号 判決 1967年12月26日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人塩谷千冬提出の控訴趣意書同補充書及び弁護人高橋良祐提出の控訴趣意書に記載するとおりであるから、これらを引用する。
弁護人塩谷千冬の控訴趣意中事実誤認の論旨について。
しかし被告人が原判示のとおり被害者山崎道子を脅迫し、その自由意思に反し裸体にさせて本件写真撮影を行つたことは、原判決挙示の各証拠を総合して優に認めることができるのであつて、背部にオーバーをまとつているにもせよ、このような裸体写真をとる行為が被害者の性的自由を侵害するわいせつの行為に該当することはいうまでもない。被告人の原審及び当審公判廷における供述中右認定に反する部分は前記各証拠に照らして到底措信することができず、他に記録を精査しても原判決に所論のような事実誤認はない。論旨は理由がない。
弁護人高橋良祐の控訴趣意中法令適用の誤りの論旨について。
しかし報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行つた被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかつたとは俄かに断定し難いものがあるのみならず、たとえかかる目的意思がなかつたとしても本罪が成立することは、原判決がその理由中に説示するとおりであるから、論旨は採用することができない。
弁護人塩谷千冬、同高橋良祐の控訴趣意中量刑不当の論旨について。
しかし被告人の内妻に頼まれてその出奔を手助けした被害者がこのことを隠し、借金を倒して逃げられた等と事実に反することを喋つたからといつて、その後内妻と仲直りした被告人がこれを根にもつて原判示のように執拗に被害者を脅迫し、更に内妻の面前で裸体にさせてしかもその写真をとる等、犯行の態様が陰険悪質で、犯行後も被害者らから交付方要求されたのに容易に右写真やフイルムを渡さない等反省の実が窺われず、商家の若妻である被害者に与えた打撃も甚大であること、その他被告人の経歴、前科等記録にあらわれた諸般の事情を総合すると、被告人に有利な情状を考慮しても懲役一年の原判決の量刑はやむをえないものというべく、これが不当に重いとすることはできない。論旨は理由がない。
よつて刑事訴訟法三九六条を適用して主文のとおり判決する。